きらきら星と

シュール

007罰

1度窓から飛び降りようと足を桟にかけた。もう1度は階段のてっぺんから落ちかけた。どちらも死に近づいた瞬間だった。あの日々があったからわたしの人生はおまけになった。あの日に死んでいたら今を感じることはない。人を好きになったり大切に思ったり、幸せを祈ったり。もっと早くに死ぬんだと思っていた。今日を生きていることに感謝している。
大切なもの以外どうでもいい。大切な人が生きていてくれたらそれでいい。そうやって過ごす毎日をわりと気に入っている。
暖かい部屋の中から見える外は、冷えた空気と鋭い風。歳をとっても胸の中にあるさみしさは消えない。同じようにたまに顔を出し、たまにどこかへ行く。
私の描く絵を大切にしてくれる人がいたりごみ箱へ捨てる人がいたり。貶す人もいた。気持ち悪いと言う人もいる。
空を見たら月が欠けていく。もうこれからは年末に母のところへ行かない。今日が最後になるんだとわかっていた。住所を渡しありがとうも言わないでこども時代を過ごした場所の全体を見回した。田舎だからずいぶん広い。切られた無花果の木や20歳まで居た子ども部屋を想像した。入る必要はなかった。いつか終わるだろうと思っていたその日が来たことに実感はわかなかった。
家族ってなんだったんだろうね。育まれたもの。育まれなかった情緒。
世迷言。わたしは私の中に湧き上がる熱しか信じていない。
遠い空の下見上げれば同じ月を見ていたりする。生きていたら起こること。
がんばったねぇがんばったよねぇ。聞こえてくるささやき声を聞こえないふりして元気に笑う。つまらない。ぜんぜんつまらない。
あなたを好きなわたしのことをわたしはそれはやさしい気持ちで見ていた。よかったねぇたのしかったねぇだけどそれは急に終わるから気をつけるんだよ。そうなっても生きていけるように手筈を整えて準備を怠らないようにね。人には理由があるよ。どんな事にも理由があってそれを邪魔してはならないよ。わたしだって自分なりの理由でたくさんの人を傷つけてきたでしょう?本意でなかったとしてもそうだったんだから、その報いが回ってくるんだよ。
顔もあげれず下をむいたまま頷くしかない。報いが来たんだよ。
因果応報など信じていない。なのに幸せな日々に罰が下される。
出来ることは祈るだけ。
その世界に干渉するなど出来やしない。
もう一度窓の桟へ足を掛け、身を乗り出す。ゆらゆらと風で揺れるからだ。左手だけがフックのように室内へ引っかかる。この手を離せば。新しい世界へ行けるのかもしれない。
100年後、500年後もしまた出会えたら、神様、罰はいらないです。

星野です 不惑の年を生きます